鉄道では、遅れが生じた場合、可能な限り正常なダイヤに戻すべく行われる回復運転という手法があります。
乗務員の腕の見せ所である一方、かなり神経を使うこの運転方法。
今回は、いかに列車遅延を戻していくか、乗務員目線での手法について書いていきたいと思います。

目次
回復運転とは
そもそも回復運転とは何ぞや?と思われるのではないでしょうか。
回復運転とは、列車遅延時に通常よりも速度を出し、制限速度ギリギリで運転し、普段よりも高い速度からキツめのブレーキをかけて駅に停めることで時間を短縮する運転方法です。
信号はもちろんのこと、線区における最高運転速度、車両ごとの最高運転速度、カーブでの速度制限、ポイントの速度制限のあるやら、急な下り勾配でも制限はあります。その中で、線区の地形や運転条件をすべて把握した上でギリギリの速度を出すわけです。
普段の通常ダイヤでは、大なり小なりゆとりを持った時間設定がされています。そこを上記のように常にギリギリの速度を出すことで時間の短縮を図っていきます。
ここからは乗務員目線でのやり方を書いていきます。
速度を出す
おそらく誰でも真っ先に思いつくであろう…笑
前述の各種制限速度などをすべて把握したうえで、今出せる最高速度で常に走ることで時間短縮を図ります。
単純計算で、80km/hのスピードで1km走るのにかかる時間は約45秒ですが、これを100km/hにスピードアップすれば約36秒で走りきることができます。約9秒短縮できていますね。
こうして少しずつ秒で削っていきます。
停車時に強いブレーキを使う
真っ先に思いつく方法は1の速度を出すことですが、実際に運転をしている体感から言うと一番重要になってくるのがこのブレーキ操作で時間短縮をすることです。「詰める」と表現する操縦方法です。
まずこちらの図を見ていただきたい。


これは、縦軸に速度、横軸に時間を置き、黄色で色付けした初速と0km/hで囲まれた三角形の面積が移動距離になる図です。
上の図では、初速81km/h、減速度2.7km/h/s(1秒毎に2.7km/hずつ減速する)を示していて、この場合ではブレーキをかけ始めてから停まるまでに30秒、移動距離は337.5メートルです。
10両編成でホームいっぱいに停まる場合で例えると、駅の100メートル以上手前からブレーキをかけはじめる優しい停め方ですね。普段ならこんな運転するかも!
一方下の図、初速81km/h、減速度4.5km/h/sとかなりキツめのブレーキの場合では、ブレーキをかけ始めてから停まるまでに18秒、移動距離は202.5メートルです。
同じく10両編成で例えると、駅に入ってからブレーキをかけて停まるくらいなので、かなり強いブレーキであることがわかります。
1の速度の項目で書きましたが、速度を20km/h上げて1km走っても短縮できるのは約9秒。一方同じ速度でもブレーキを詰めて駅に停車させると12秒も時間を短縮することができました。
このように、遅延回復にはブレーキが重要であることがわかるかと思います。
ただし、ここではブレーキ力を一定で計算していますが(複雑になるので)実際は速度が落ちるにつれてブレーキを弱めて停めています。

あくまで理論上の数値であることをご了承ください。

回復運転の注意点
ここまで手法について書いてきましたが、注意すべき点は普段よりも多くなります。
まず何より、制限ギリギリの速度を出して走ることになるため、普段ブレーキを使わない所でもカーブの制限に合わせるためブレーキをかけたりと、常に速度超過との背中合わせの運転になります。
駅停車時にも普段よりも距離を詰めてのブレーキとなるため、わずかな操作の遅れがオーバーランに繋がる可能性も高いです。
福知山線の脱線事故の原因は、遅れを取り戻すために速度を出し、カーブの制限に対するブレーキ時機を逸したためだと言われています。
このように下手をすると事故につながりかねない、かなり神経を使う運転になるのです。

無理な回復運転をして事故を起こしてしまえば元も子もないですから、疲労感の強いときや集中しきれていないようなときにはやらないようにしています。
とはいえ、終電等の接続なんかも考えるとやらざるを得ないところもありますけどね。。

まとめ
・遅れを取り戻す手法のひとつが回復運転
・速度を出す以上にブレーキ操作が重要
・事故につながる可能性は上がるので要注意
以上が遅れを取り戻す、回復運転についてでした。
私の担当線区では、乗務員のテクニックだけで始発駅3~4分程度の遅れが元に戻せる限界といったところでしょうか…。
速度を出す以上にブレーキ操作が重要であることは、私も運転士になるまで知りませんでした。でもこれが結構戻せるんだなぁ。。。
もちろん、事故だけは厳禁なので無理にすることでもありませんということは強調しておきたいところです。
それでは今日はここまでになります。最後まで読んで頂きありがとうございました。
